私の好きなアルバム紹介

朱儀玲『山地情』

01.姑娘和情郎
02.涼山情歌
03.山地情涙
04.山地純情花
05.阿美族舞曲
06.山地多情歌
07.山地追想曲
08.走進我夢裡
09.長興村之戀
10.山地小姑娘
11.山地好風光
12.想[イ尓]
13.我愛山谷紅[王攵]瑰
瑞華唱片、1995年

私の好きなジャンルに台湾山地情歌があります。ここで紹介する朱儀玲『山地情』もそれに該当するといっていいでしょう。山地情歌といえば南米のフォルクローレを思い浮かべる方もいらしゃるかと思いますが、台湾山地情歌も一応それらと共通する要素を持っているジャンルといっていいのではないかと思います。しかし、私にとっては世界的に広く知られるフォルクローレよりも、台湾などごく一部でしか知られていないローカルな存在の台湾山地情歌のほうがはるかに魅力を感じるといってもいいのです。
台湾山地情歌は台湾では高勝美や林玉英などが以前からよく知られています。だが、私が知る限り台湾よりはマレーシアのローカル華人のほうにより多くのアルバムが存在するのではないかと思っています。そのマレーシアの華人の中で特に素晴らしいと思っているのが朱儀玲の『山地情』です。
台湾山地情歌は台湾に九族あるとされている山地族(台湾原住民)をテーマにしたものです。歌を聞くと確かに原住民の言葉かと思える意味不明なかけ声のようなものが入る曲も少なくありません。
しかし、メロディ面からみるとあまり原住民らしさは感じられず、どう考えても漢族の音楽のように聞こえます。また、ほとんどが北京語であることからも、戦後漢族が山地族をテーマにして作った歌謡曲ではないかと思われます。もちろんここで紹介する朱儀玲の『山地情』も北京語です。ただ全曲が山地ものかというとメロディなどからそうとは思えないものもあります。では、すべてが台湾ものかというとそれも怪しい。出所などは必ずしもわかっているわけでありません。それでも、このアルバムに収録されている曲、どれをとってもメロディは美しく素晴らしいものばかりです。
西洋風のポップス系サウンドの音楽を好む人には受けないかもしれないが、歌謡曲ファンには自信を持ってお薦めできるものです。

以下、私が聞いた各曲の印象について書いてみます。
「姑娘和情郎」は華やかさ溢れた美しいメロディのイントロで始まります。‘何という美しいメロディか’というのが第一印象、姑娘と情郎の和やかな雰囲気というのが歌によく現れているといえる。快適なリズムとテンポ、朱儀玲にあったキーの曲で実に歌いやすそうである。先頭に持ってくるだけのことはある。とにかく極上の出来である。
「涼山情歌」は哀歓のある濃厚な情感のメロディの曲だが、歌い方としてはことさら哀歓を強調したものではなく、明るく素直なイメージすらある。テンポも中庸で歌いやすそうなだけあって、ともかく出来がよい。終わりは繰り返しでだんだんと静かになり終結している。
「山地情涙」は適度に抑揚がある心地よさがある美しいメロディで、彼女の歌も滑らかである。曲の展開もスムーズで、聞く者を自然に中に引き込んでしまうような感じすらあります。
「山地純情花」は山地語らしき意味不明の言葉がしばしば入ります。たとえば‘ヘイホホ、ヘイホホ’などがそうであるが、その語が入ることで山地ものらしさが強調されています。中国メロディと山地語がごく自然に合体、融合しているといえる。
「阿美族舞曲」は、バックコーラスを伴ったいかにも山地ものらしさのある明るく、美しいメロディのイントロで始まる。思わず華やいだ美しいメロディに耳が釘付けになるほどである。途中での曲調の変化が何度かあるが、それが劇的なまでに効果を発揮しているといえる。バックコーラスは山地語で、歌も山地語が盛大に含まれていている。
「山地多情歌」は滑らかなイントロ、ほのかな愁いのあるメロディで比較的音域の広い曲に思えるが、
彼女は高音部も無難に歌いこなしているといえよう。
「山地追想曲」はリズム感豊かなイントロ、歌も適度なリズムとアクセントをきかせている。曲の展開もスムーズで、歌、演奏とも素晴らしく、聴感的な快さは抜群である。
「走進我夢裡」は一応山地ものらしい歌詞のように思われるが、メロディ面からはあまり山地ものらしさはない。やや哀歓のあるメロディではあるが普通の歌謡曲といった趣である。
「長興村之戀」はオーソドックスな山地ものといえるが、そうかといって哀歓が強いメロディというわけではない。村の風景を客観的に表現しているようにも感じられます。
「山地小姑娘」も山地語を効果的に使っています。‘ホーイヤナイヤ、ホーハイヤ’と聞こえますが、曲間や終結部に使い見事な効果を発揮しています。特に民謡色(あるいはローカル色)が強いとメロディといえよう。
「山地好風光」も山地語が効果的に使われているという点では「山地小姑娘」と同様といえよう。部分的にはメロディ面でも似た箇所があるように思える。全体的な印象も「山地小姑娘」に似ていると思う。
「想[イ尓]」は山地色はあまり感じられないが、滑らかで美しいメロディである。途中の歌とメロディには独特の風味が感じられ、ややミステリアスな雰囲気すら漂わせています。
「我愛山谷紅[王攵]瑰」はタイトルこそ山地ものみたいであるが、メロディ的には山地色はあまり高くなさそうに聞こえます。必ずしも悪い意味ではないが、彼女のやや癖のある高音が目立つといえる。この曲であればそれはむしろ効果的ですらある。歌い方も山地風という感じでもなく、この曲もごく普通の歌謡曲といった趣である。



私の好きなアルバム紹介TOPに戻る

福建歌謡のページに戻る

卓依[女亭]新在線