私の好きなアルバム紹介

陳淑樺『淑樺的台灣歌』

01.月夜愁
02.白牡丹
03.阮不知[口拉
04.秋風夜雨
05.走馬燈
06.思想起
07.河邊春夢
08.台東人
09.捕破網
10.孤戀花
滾石有聲出版社発行、1992年

私が中華ポップスを聞き始めた初期の頃であるが、陳淑樺の『淑樺的台灣歌』は台語のアルバムとしては一番最初に聞いたものです。それまでケ麗君の北京語、陳慧嫻の広東語のアルバムなどを聞いていたが、『淑樺的台灣歌』の歌とアレンジのモダンさとハイセンスさには驚いたものです。当時台語の歌はこのようなモダンなものとついつい思い込んでしまったが、本来の台語の歌はそうではないことに気がつくのにさほど月日は要しませんでした。
このアルバムは台語のアルバムとしてはきわめてユニークなもので、タイトルにあるようにあくまでも『淑樺的台灣歌』であるといえます。要するに陳淑樺の独自解釈による台語歌謡というのが適切であろうと思うのです。それでも数ある台語のアルバムの中でも、これほどの快心作はないと思えるのも確かです。陳淑樺自身にとってもきっとそうであったに違いありません。しかし、これほど素晴らしい出来のアルバムを作ったにもかかわらず、次の台語のアルバムは出てきません。それもそのはず。このアルバムがあまりにも素晴らしく、企画制作をする立場からみれば、おそらくこれを上回るアルバムなど作りようがないと思うはずだからである。このアルバムは台語ファンというよりはむしろ普段北京語歌謡に親しんでいる人にこそ聞いて欲しいと思うのです。
このアルバムに収録されている曲はいずれも古いもので台湾の年配者なら誰でも知っているような有名なものばかりではないかと思われます。そういった曲にジャズやフュージョン風のサウンドを大胆に取り入れてモダンな味付けがされています。全体を通じて陳淑樺には独特の解釈があるが、ヴォーカルはあたたかく、ふくよかで大変魅力的です。

以下各曲について聞いた印象を簡単に述べます。
「月夜愁」はバラード風の情緒溢れるメロディラインが素晴らしい。彼女の歌もあたたかく、ふくよかであるが、息継ぎが難しい箇所の鮮やかな歌いっぷりが見事です。特にアレンジ面でスウィング感が豊かなジャズ風のピアノ演奏が入ったりとモダンな感覚を演出している。
「白牡丹」は「月夜愁」と同様バラード風です。途中の歌謡風の間奏が効果的です。女性歌手らしいふくよかさが際立つ歌唱だといえる。
「阮不知[口拉]はいきなりジャズ風のスウィング感溢れるイントロに意表を突かれます。彼女の歌唱もスウィング感溢れるもので劇的な効果を発揮しています。伴奏と歌のスウィング感は最後まで一貫しています。この歌唱は本来の台語歌謡の歌い方とはかけ離れているのかもしれないが、個人的にはこのほうが絶対にいいと思っています。
「秋風夜雨」はどこか鬱感がある甘く情緒溢れるメロディラインに思わずうっとりとしてしまいます。
それにも増して彼女の歌唱は軽やかであり、何と言う甘さか、驚くしかありません。
「走馬燈」もアレンジのモダンさはあるが、このアルバムの中でのこの曲の彼女の歌唱は台語曲として比較的オーソドックスなほうではないかと思われます。
「思想起」ですが、この曲にしてはテンポは早く、独特の歌唱に驚きます。これは彼女なりの解釈なのであろう。軽やかでふくよかな歌唱が見事な効果を発揮しているように思える。後半現れる金管の演奏は田園の風景を思わせるのどかな雰囲気を醸し出している。
「河邊春夢」はフュージョン風の音作りのように感じられるが、南国ムードの情緒溢れるメロディ、やややるせなさのある彼女の歌には、何かはかなさを感じさせる。どこか当時の社会情勢を反映しているのであろうか?
「台東人」は伴奏より歌が強く全面に出てきている語り口調の独特の歌である。意味がわからないが聞く者に対して強烈なメッセージで語りかけているようにも思えます。
「捕破網」は甘く、切なさのあるメロディがやさしく訴えかけてくるようでもある。彼女の歌は特に切なさを強調した歌い方ではないが淡々と聞く人に語っている感じである。
「孤戀花」はジャズ風ピアノの伴奏で、それをバックに流麗に歌う彼女の歌は何を語ろうとしているのであろうか?自分の心の中で満たされない気持ちを歌で表現しようとしているようにも思えます。




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